「インド旅行記1 北インド編」,中谷美紀,幻冬舎

インド旅行記〈1〉北インド編 (幻冬舎文庫)
発売開始した日に偶然本屋で見つけ,旅行記が読みたいなとおもっていた私は少し立ち読みした.最初は,ただのタレント本だろう,どうせありきたりなことが書かれていておもしろくないだろうと思っていた.


まえがきにこんな言葉があった.

あの時期,私は精魂共に尽き果て,完全に疲弊していた.「嫌われ松子の一生」という映画を撮り終えて間もない頃だったのだ.


他人の感情や価値観を媒介となって取り込み,そして吐き出すという撮影の日々に少しはなれたつもりでいたけれど,それはごく稀にアイデンティティー喪失の危機をもたらす.


もう,何もできない.何もしたくない.そんな思いを振り切るように,飛行機に飛び乗り,前進せざるを得ない状況にこの身を投げ入れた.


・・・


これを見て本文をチラッと読んで買う気になった.


内容は旅行記では普通な自分で道を切り開くバックパックのような旅行ではなく,最初から旅行社を使った旅行であることが分かる.もちろんパックではなく,どうも自分で手配した(あるいは幻冬舎が用意したか)旅行のようである.それでも中谷さんのいきたいと感じたところでアレンジされているようである.


町や人の様子,見た印象が書かれている.そこに行ったようにあるいはいるように感じさせるほどの文章力はない.しかし,中谷さんが本当に驚いていたり日本とは違う感覚に対してどう感じたのかということはよく分かる.まさに,まえがきにあったアイデンティティではないが,自分の感情や気持ちを吐き出せる場所だったのだと思う.


これだけなら別に読んでいてもイマイチなのだが,これを読んでよかったと感じた点が一つある.それは,現地の人との交流で中谷さんがその人はどういう人なのか,どういう気持ちを持った人なのか,といった点を描き出して中谷さんの感じたところを書いているところである.そこに大人の人を感じた.少ししか話していない人から,その人の状況・気持ちをくみ出す.それも通り一遍ではなく,もっと深いものであった.そこには今までの人生と,女優での経験があるのだろう.