「高橋是清自伝(下)」,高橋是清・上塚司編,中央公論社

高橋是清自伝 (下巻) (中公文庫)
日本銀行副総裁になった高橋是清は,とき日露戦争に入ろうとしていた.そんな中,アメリカ,イギリスと世界をまたにかけて金策に翻弄する.当時,イギリスやアメリカから見れば遠くの極東の国,ほとんどの人がどんな国なのか,国民性なのかなど知らなかった.そんな中,外貨を集めるために国債を発行しようと奮闘する.彼の若いころの伝をたどり,数多くの銀行界の人々や政府関係者に会い,日本の思いを伝える.そんななか,ようやくイギリスの銀行家が日本の考えを理解して国債発行の手助けをしてくれることになる.当時日本がイギリスと同盟を結んでいたことや,ロシアに対する批判の声があり,それらを追い風にイギリスでは国債発行がうまくいくと踏まれたためだ.そして,アメリカの大資本家も動き,アメリカでも国債発行がなる.発行の結果,想像以上の盛況で長い行列が銀行にできた.是清はこれをみて感無量だったようだ.

そのあとも軍費がかさむため,何度か発行を繰り返す.そのたびに是清は,丁寧な説明をして十分な理解を得ようと努める.このような場合,国の思惑がありその秘密を隠しながらすることが多いが,是清は包み隠さず正直に伝えていたようだ.そのため,多くの銀行家が納得し進んで協力してくれるまでになる.ドイツでも発行することとになるが,そういう話も先に発行に協力してくれたイギリスやアメリカに十分説明をしている.

戦争後の新規発行(引き上げや国内の殖産のために必要だった)や回収のためにも,丁寧な対応を心がけたようだ.欧米にとって遠い国である日本.その日本が一度誤解を受ければ,遠い国であるからこそ誤解を解くのがむずかしい.それを十分に理解して,是清は丁寧に義に悖らないように対応し続けた.日本の代表だという気持ちをずっと持ち続け,自らの信念・義と国の要求という相容れぬしがらみに悩みながらも,奮闘した姿が,この本からよくわかる.