「お江戸の武士の意外な生活事情」,中江克己,PHP

お江戸の武士の意外な生活事情―衣食住から趣味・仕事まで (PHP文庫)
武士の生活は,時代劇によって往々にして間違ったイメージが受け付けられている.もちろん鬼平犯科帳のようにつくりのいい時代劇なら様子が当てはまる場合もある.そうはいっても武士の身分によってその生活は大きく異なる.細かい話はでてこないが,大きくいろいろな面から武士の生活を知るにはちょうどよい本である.これに,参考資料として挙げてある本があれば,素人で興味を持った人をより興味深い世界に誘導できるのではないだろうか.

間違ったイメージとして,「切捨て御免」や「悪代官」に代表されるような特権が数多く存在したということがある.これらはあるにはあったが少数である.まず切り捨て御免は,江戸時代を通してほとんどなかった.きりすてた場合には,相手が無礼を働いたことを証明する証人が必要だった.それがなくて,切捨て御免を行った武士は遠島になったそうである.

また,悪代官と越後屋の癒着といえば,時代劇の定番である.しかし,代官には実はそんな大きな権力はなかったので,実際には良心的な代官がほとんどだったようである.実際,他の本で読んだことがあるが,領民と代官が毎年年貢の割合を協議で決めている場合があったらしい.お互いの生活を保証しあう真に良好な関係が築かれていたことがわかるエピソードである.