「町人の都 大坂物語」,渡邊忠司,中央公論社

町人の都 大坂物語―商都の風俗と歴史 (中公新書)

町人の都 大坂物語―商都の風俗と歴史 (中公新書)

江戸時代の町に関する書物も研究も,江戸については多くなされている.しかし,大坂,京に目を向けるとそれほどされている訳ではない.筆者がこれまで調査してきたものを元に,江戸時代の大阪の様子を述べている.その根底となっているのは,江戸から大阪にやってきた人の大坂(現・大阪)感を書いた書物,「守貞漫稿」(喜多川守貞),「街能噂(ちまたのうわさ)」(平亭銀鶏),「浪華の風」(久須美祐雋),「譚海」(津村淙庵)など.大坂では,町年寄が町人(大坂で家を持つ,または家の管理を任されている人で人口の1割程度)の選挙により選ばれていた.封建制度世襲制の多い中で,人口の1割とは言え民主的な一面があったことに驚きを感じる.ただ町人になれる条件を満たしていても町人に課せられる役割や税金を嫌ってならないものも多数いたようである.さらに,江戸では5割が武士だが,大坂ではなんと3%程度.大坂に住む武士も町人の商売感覚に染まっていることに,江戸から来た武士たちは上に挙げた書物で嘆いている.しかし,こんな経済感覚がもっと江戸幕府にあれば適切な政策がとれたように思う.さて,今の政府には的確な経済感覚,あるいは政治感覚があるのか?いつの時代でも難しい問題である.