「額田王の謎」,梅澤恵美子,PHP文庫

額田王の謎―「あかねさす」に秘められた衝撃のメッセージ (PHP文庫)
額田王といえば,飛鳥時代を生きた万葉歌人で,美貌で数々の浮名が立ったと言われている女性である.万葉歌人として万葉集にたくさん登場し,天武天皇との間に子供(十市皇女)をもうけ天智天皇の后になったにも関わらず,日本書紀はほとんどその記述がない.記述は次の1行のみである.

天皇(スメラミコト),初め鏡王(カガミノオホキミ)の女(ムスメ)額田姫王(ヌカタノオホキミ)を娶して,十市皇女(トヲチノヒメミコ)を生(ナ)しませり」

ここの天皇天武天皇であり,十市皇女が生まれたときは天皇ではない.


さて,この日本書紀での扱いの低さに着目した著者は,額田王は歴史から抹殺されたのではないかと推察し調べている.その調べでますます歴史から抹殺したように感じられた.それを要約する.

天皇家は,九州出身の大豪族である.
物部氏は,出雲から大和へ遷って大王として君臨していた(物部天皇家とよぼう).
・古代は,女性血縁が正統とされていた.
天皇家の祖である神武天皇は,物部天皇家に婿として入った.
物部氏蘇我氏は通説で言われているような不仲ではなく,むしろ非常に友好的な関係にあった.
・物部・蘇我政権は天皇家によって打倒された.
・天智・天武はそれぞれ,天皇家派,物部天皇家派である.
額田王は,物部天皇家である.
額田王は,天皇になる前の天武と結婚していた.→つまり,天武は物部天皇家派になる.
・天智は物部天皇家の力を利用するため,額田王を天武から奪った.

この本を読んで,天皇家がなぜ物部天皇家に婿として入ったのか,そこの理由が弱いと感じた.本文中では「九州出身の天皇家のもつ外交能力を欲したため」となっていた.女系として強く更に大和で協力関係を組む蘇我氏平群氏を始めとする多くの豪族がいたにもかかわらず,天皇家にのっとられ歴史から抹殺されたことに驚きを感じる.本当なら,すごく長い年月をかけた壮大な計画である.

結局のところ,持統天皇(=天智天皇の娘)が完全に天皇家中心の政権として,それ以前の物部氏の力を歴史上から抹殺した.そして古代から続く女系の力による政権支配,つまり物部天皇家の手法は,そっくりそのまま藤原氏に受け継がれる.つまり,藤原不比等から藤原道長へと続く.そして,また平清盛も同様の方法をとった.どこまで,本当かわからないが,古代を紐解くことは日本の国の成り立ちを知ることになり,楽しい.わからないことばかりの古代にはロマンがつきません.

ちなみに本書では,天照大神持統天皇が作り上げた神(つまり物部系の神を否定するために)で,持統天皇そのものを表しているとなっていた.つまり,持統天皇は神になった.天照大神,日本を創造した神としての物部系の神を否定するために作り上げられたため,矛盾が多いみたいである.

古代を読み解く方法について.この本やその他の本でもよくとられるのが,名前や地名の関係である.そこに同じ音や意味を持つ漢字を使っていれば,そこに関係があることを疑う.そのような事例が複数の書籍や出土品からわかれば疑念が深まり,ひとつの説になっていく.大合併などといって地名がどんどん変わりますが,今の世にも古代から続く名前が残っていることに壮大な時間を感じました.