「解読された邪馬台国の謎」,重森功,日本文芸社

【11/24掲載,12/18更新】
本書では,魏志倭人伝において邪馬台国に関する記述が全て正確であると考えた場合,どこに邪馬台国はあったのかを推定しようとしている.今までの教科書や学説等では,議事倭人伝の記述が誤りであるという考え方が広くとられている.しかし,中国の長い歴史の中で,歴史を正確に刻もうとする精神が受け継がれている.司馬遷史記など最たるものだろう.宦官にまでされながら,それでも歴史を正確に残そうという中国の人々の雄雄しい志にただ驚きそして感銘を受ける.その心で書かれた正史「魏志倭人伝」を疑うことから始める通説に,著者はいかっているようでさえある.なるほど,正しいところが多い.私も魏志倭人伝を信じたい.


結論からいうと,本書で著者は「邪馬台国熊本県筑後川の北側にあった」としている.そしてよく問題になる魏志倭人伝に書かれた行程の方向,距離の齟齬については,明確な説を示そうとしている.邪馬台国と敵対関係にある国があり,その勢力範囲を避けた結果,大回りする行程となったのではないかとしている.なるほどと思うところもある.残念なことは,「客観的に論を展開する」と言いながら、「〜〜と思いたい」,「〜〜としたい」という願望調で書かれている点である.そして魏志倭人伝ばかりでなく,他の出土状況も多く取り入れて,多岐にわたる視点から迫ってくれると,納得しやすかったと思う.