「暗夜行路(後編)」,志賀直哉,岩波書店

暗夜行路〈後篇〉 (岩波文庫)

読み終えてからかなりたつが,残しておこう.

主人公・謙作は,京都にいたときに,ふと見かけた女性が気になり,なんとか知り合う手づるをつかもうとする.京都にいる知り合いにこの話をすると,そこから人づてがつながり,結婚まで進む.しかし,これまでの間,謙作がその相手の女性・直子と話したことはほとんどない.当然,直子の性格や人となりをほとんど知らないはずである.昔の人々は,こんな感じで結婚していたのだろうか.最近,「人は見た目が9割」というような本がはやっているけれど,一目惚れにしてもすごすぎる.案の定,結婚話まで進み始めて改めて近くで見た謙作は,直子のことを,「こんな感じだっけ?」とすでに自分の中に描いた彼女との差異を見ている.それでも結婚して,それなりに幸せな家庭を築いていく.子供が生まれたものの,生後数週間でなくしてしまう.ひどく気落ちする二人である.

そんな中,梅雨の蒸し暑さのせいや,直子の行動に対して不満を心のそこに持っていた謙作は,くさくさし気分で癇癪を起こす.そのときは,家族そろって鎌倉にいる兄に会いに行く予定だった.直子の支度に時間がかかった上に,二人目の子のおむつを変えてさらに遅くなり,列車にぎりぎりとなる.そのとき,走り出した列車に飛び乗ろうとする直子を反射的に「おまえは帰れ!」と謙作は,押し返した.直子は腰を打って怪我をするが,それよりもだんなにそのような仕打ちを受けたことにショックを隠しきれず,謙作との仲は非常に悪くなる.また,それが謙作をいらだたせる.直子の行動を許したと口ではいい,そう自分でも思おうとしている謙作だったが,やはり心のそこではそう思い切れていない様子である.それがまた直子にもわかり,自分に対する苛立ちを晴らそうと謝るようなしぐさをする.それにまた腹が立つ謙作.本当に悪循環になっている.

謙作は,この状態から抜け出ようと,以前から行きたかった大山へ行く.そこでまた草草の事どもがあるが,このあたりから物語が駆け足になり物足りない.最後は適当につじつまを合わせて終わらせたような印象を受けた.

結局,暗夜行路は,前編がよいと感じた.志賀直哉自身,長編はこれ一本しか書いたことがなく,どうも短編を得意としていたようである.次は,彼の短編を何か呼んでみようと思う.