「高橋是清自伝(上)」,高橋是清・上塚司編,中央公論社

高橋是清自伝 (上巻) (中公文庫)
高橋是清といれば,「だるま宰相」と愛嬌のある名前で呼ばれている有名な政治家である.その彼も,若いころは多くの苦労を乗り越えてきたようである.あるときはアメリカで身売り同然の状態になったり,あるときは家も失いその日の生活さえ困る状況になったりと,浮き沈みの激しい人生のようである.

そんな厳しさを身をもって接してきたため,彼の得た知識は経験に基づいており,正金銀行や日本銀行の経営には辣腕を振るった.本書中でずっと一貫して書かれていることは,周囲の人々への感謝の心だと思う.生活に困り果てていたときに新しい仕事を世話してくれる人,様々なアドバイスをくれる人への感謝である.

そんな助けてくれた多くの人は,彼の若いころに知り合った人が多い.高橋是清は,明治時代では極めて稀なアメリカへの留学という経験をしている.その留学先で「勉強をさせてやる」といわれていたものの実は身売りされていたのだ.そんなアメリカで知りえた日本人が後に彼を助けてくれる場合もある.もちろんアメリカまで渡るにはそれなりの財力を持った人が多かったため,それなりの地位を築いた人が多かったからこそ,彼が救われる機会ができたこともあろう.それをさしひいても彼の若いころに知り合った人や,教え子(彼は日本に帰ってきてから,10代にも関わらず英語教師をしており,教え子のほうが年上ということが多かったようだ)に助けてもらえたのは,彼の「人となり」がすばらしかったのだろう.写真を見ても,おだやかな顔をしているものが多い.