「電子自治体が暮らしと自治をこう変える」,黒田充,自治体研究社

「電子自治体」が暮らしと自治をこう変える―住基ネットとICカード、電子申請の何が問題か
電子自治体に関する問題点と今後の方向性を示しながら,著者の考えを述べている.キーワードは,住民基本台帳ネットワーク(住基),電子自治体.
少し古い本だが,今の電子自治体の流れはどういったところから起こってきたのかを知りたいと考え,読んだ.以前の住基に対する考えや方向性を知ると,かなりすごいことを考えていたようだ.

今,住基カードが発行されていて,身分証明書としても利用できる.それは,ICカードなので,いろいろな情報を載せることができる.導入前の考えでは,民間の情報も相乗りさせようとしていたようだ.住基カード一枚あれば,クレジット,キャッシュカードにもなるし,マンションや会社の入退室カードにもなるし,病院の診察券や定期券やポイントカードにもなる.生体認証もしたいなら,指紋や虹彩,指静脈といった情報も収集しようとしていたようだ!なんと,合法的に指紋情報がとれる!!そんな構想すらあったようだ.これはかなり便利だが,裏を返せば極端な危険性を伴う.つまり,このカード一枚を落としただけで,市民生活が営めなくなるだけか,悪用されればとんでもないことになる.

これまで市町村は,市町村住民の情報を安全に管理すように,それぞれの市町村で閉じたシステムで管理してきた.それが住基の登場により,国とネットワークをつなぐことになった.これは,今までの市町村の安全や個人情報を大切に扱おうとする意識を大きくふみにじることになったわけだ.私としては,確かに引越しのときなどには便利だろうが,年に何回もあるわけではない.それにもかかわらず数百億円のお金をかけてまで整備する意味がわからない(うちの会社も住基の恩恵があったのだろうけど・・・).

住基に限らず電子自治体の流れも問題がある.電子自治体を行うために,業務の標準化を行っているところが多い.なぜなら,ベンダからの調達でカスタマイズが増えるほど,コストも時間もかかる.その結果,システムに業務を合わせる形になっていて,自治体主導というよりももベンダ主導になってしまう場合がよくある.自治体の職員自身がシステムに疎くベンダに任せがちになることが大きな原因だろう.

この結果,住民によかれと思って様々なサービスを独自にしていたものが,どんどん失われる可能性がある.その結果,どこの市町村でも受けるサービスは同じになり,住民としては住みよい場所(=都会に近い場所,便利な場所)に引っ越そうとなるかもしれない.そうなれば,過疎の市町村は益々過疎になるわけだ.国もどちらかといえばそうしたいと思っているきらいがある!!過疎にして自分たちだけで立てない自治体が増えれば,合併を行って自治体を少数にできる.そうすれば,管理が簡単になるし,国が主導権を握ることができる.つまり,国は地方分権といってはいるが,本音は中央集権で力を持ちたいと思っているようだ.

今後自治体が目指すべき姿は,どこなのか.私の考えはこうだ.
電子自治体は国の施策で必ずしなければならない.それなら最低限の電子化を行って,それ以外はなるべく住民とface to faceの関係がとれるように図るべきだ.自治体の存在意義のもっとも大きなものは,住民のすぐそばにあるということなのだから...