「阿弥陀堂だより」,南気佳士,文藝春秋

阿弥陀堂だより (文春文庫)
小さな村に生まれ,そこで祖母と生活することがいやで東京にいる父の元に行った主人公の孝夫.しかし,そこにいた継母とうまくいかず,一人暮らしを始める.大学で知り合った女性・美智子と結婚する.孝夫は,小説を書き新人賞を受賞する.脱サラして,小説を書き始めるが,行き詰まりを感じる.
一方,妻の美智子も子供を流産してから,精神的につらい日々を過ごす.
そんな中,二人は孝夫の田舎に戻る.孝夫が子供の自分からいる,阿弥陀堂を守る老婆,その生活や老婆の考えを伝える「阿弥陀堂だより」というコラムを地元紙で書く,難病を持つ少女に出会う.その二人や,多く残る自然に触れる中で,二人は穏やかな気持ちと人間らしい生活を取り戻していく.
そんな中,少女は難病が再発する.医師である美智子は,その少女の治療を通して,再び医師としてのやりがいを見つけ,自信を取り戻し始める.
また,孝夫は相変わらずなかなか小説がかけないが,妻の美智子が元気になりそれを守り立てていられることをうれしく思う.


心に残った言葉

〜美智子と一緒に少女の治療に当たった中村医師のことば〜
「私はなんていうか,すぐにその人の生き方の本質に触れるような質問をしてしまうんです.さびしがり屋なもんで,心を許せる人かどうかを試してしまう癖があるんです.申し訳ありません.」

自分自身もそうだと思う.さびしがり屋だからそういったことをするのかと,腑に落ちた気分だった.

〜家に来る二匹の子猫の様子を見て〜
朝と夕,孝夫がハムやベーコン,牛乳を与えると子猫たちは先を争って食べた.生きるために食うそのあさましい姿がまた下品で率直で哀しかった.

生きるために食う,そのために争う.本能のままに生きること,それをあからさまに見たときに感じたことだと思う.本能をそのままに見せられたときの残酷さを感じた.きっと,敗戦後の人間もこんな有様だったのだろうと考えを致した.