「山の上ホテル物語」,常盤新平,白水社

山の上ホテル物語 (白水uブックス)
以前新聞か雑誌に取り上げられてた本書のタイトルを覚えていて,本屋で見つけてあまり確認せぬまま買ったが,なかなか面白かった.
駿河台の丘に立つ山の上ホテル.おいしい天ぷらなどで有名であるが,この「山の上ホテル」を創った吉田俊男とその吉田と長年ホテルを創ってきた人々のお話が本書である.
どこにもない,チェーンのホテルとは異なる,サービスの行き届いたホテルを創ろうとした人々の努力の様子がとても生き生きと描かれている.とても裕福で金の有り余ったホテルではないはずなのに,「海外の一流のホテルをみてこい」と社員に海外視察をさせる.もちろん視察は厳しい.毎日報告レポートを書くこと,ホテルの周りの市場で何が手に入るか,人々がどんな生活をしているか,一流のレストランだけでなく最下層の人々が食べる食堂でも食事をしてこいと,難しい要求がたくさんだされている.町の雰囲気が自分たちのホテルを創る下地と考えているのだろう.

こんなどこにもないアットホームなサービス,どことなく野暮ったくもあるけれど,真心の行き届いたサービス.そのサービスを与え続けてくれるこのホテルに,多くの作家が逗留した.


吉田の一風変わったやり方や厳しさに,翻弄されてきた今のホテルを守る人々.でもそれから決して逃げなかった.逃げようとしたときには,引き止めてくれた人がいた.とても人間味のあるホテルだと思った.
一度私も泊まってみたい.そして,そのサービスを感じてみたい.