「ドラッカーに先駆けた江戸商人の思想」、平田雅彦、日経BP社

ドラッカーに先駆けた 江戸商人の思想

ドラッカーアダム・スミスがマネジメントやビジネスのあり方について論じる前にすでに江戸時代の日本では商家の家訓として多くの家で言われていた。洋の東西を問わず、むしろ西欧で言われる以前から言われ伝承されていたことがすごいと思った。

1. お客様を満足させる。
富とは人間が働いて作り出す付加価値。その富の主人は、天下の人々(お客様)。お金持ちや大名ではないのである。
一方、これが書かれた石田梅岩の「都鄙問答」が出された37年後にアダム・スミスは「国富論」で同じような内容を書く。しかし、そこには大きな違いがある。富の考え方は同じだが、アダム・スミスは富の主人を付加価値を生み出す農民、職人、商人とした。
お客様を企業の定義としたドラッカーはこの約350年後の人だ。封建時代と言われる江戸時代にすでに、お客様の満足を掲げる本が出されていたことに驚く。

2. 自立すること
封建社会だから、当然幕府や幕府の力が強い。棄捐令などで度々借金の踏み倒しがあった。それにもへこたれず、商人たちは生き残っていた。なんと、時代劇では正義の味方になる徳川吉宗が行った「享保の改革」では、7割以上の優良な商人が廃業して路頭に迷ったらしい。それほどの厳しい節約と借金の棒引きだったのだ。商人から見れば悪魔だっただろう。
それでも、大名へお金を貸す魅力は尽きない。絶対潰れないという安心感、大名に貸しているという商人としての箔である。しかし、この甘い汁ばかりにとらわれず、きちんと自らを戒めてきた商人たちは生き残っていた。

3. 共生
近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方良しの考え方。高い利益を望まず、お客さまに喜んでもらうという共に生きる気持ち、そして自然と一体化するという欧米にはなかった考え方である。

4. 倹約、誠実、信用、持続的成長、公
まさにCSRですね。江戸時代の人々にできて、つい最近まで忘れられていたことが、御先祖様に申し訳ない気持ちになります。

5. 現場主義
時代劇では、裕福な商人の家に生まれたら、使用人にかしづかれて甘やかされて育つような印象が強い。もちろんそういった家もあっただろうが、長く商売を続けている商家ではそうではなかった。外に子どもを出し、丁稚から商売の基本を叩き込むところもあったようだ。さらに、武士なら長男に生まれれば家を継ぐが、商家では違う。家族会議、今で言えば取締役兼株主が、商家を成長させられる能力があるかで決めた。だから一度後継者として決まっていても、素行が悪いと外されるらしい。それほど、現場を知り、商売の基本をまっすぐにやっていけるひとだけが、主人と呼ばれたのだ。

さらに、幕末や明治時代に日本にきた欧米人の日記の中には、文明開化を恐れる記述があったようだ。彼らからみると、技術的には欧米に劣ることは明らかだが、これほど幸せそうな国はなかったようだ。貧しくても助け合い、笑顔のある人々に驚き、ここに西欧の文明を入れることをの恐ろしさ、もう二度と日本人が皆で楽しく暮らしている状態を見られないことを悲しむ記述があった。